いよいよ適用が迫る「新リース会計基準」について、「そもそも何が変わるのかよくわからない」「経理担当として、具体的に何を準備すればいいのか知りたい」とお考えではありませんか。本記事では、新リース会計基準の概要から実務上の重要ポイント、経営指標への影響まで、図解を交えながら専門家がわかりやすく解説します。結論から言うと、新基準の最大の変更点は、これまで貸借対照表に計上されていなかったオペレーティングリースを含め、原則すべてのリースが資産・負債として計上(オンバランス化)されることです。これは企業の財務状況の透明性を高めることを目的としています。この記事を最後まで読めば、新基準への対応として「今すぐ何をすべきか」が5つの具体的なステップで明確になり、自社の会計方針決定からシステム対応、社内体制の構築まで、スムーズに準備を進めるための知識がすべて手に入ります。
新リース会計基準とは そもそも何が変わるのか
2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から、日本の会計基準においても「新リース会計基準」の適用が開始される見込みです。これは、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」や米国会計基準(ASC842)の内容に合わせる形で、企業会計基準委員会(ASBJ)が公開草案を公表したことによります。この変更は、リース契約を利用する多くの企業にとって、経理業務や財務戦略に大きな影響を及ぼす可能性があります。
では、具体的に何が、どのように変わるのでしょうか。まずは、これまでの会計基準との違いや変更の背景、そして新基準が目指す目的について、基本から理解を深めていきましょう。
これまでのリース会計基準との大きな違い
新リース会計基準における最大の変更点は、借手側の会計処理において、これまでオフバランス処理が認められていた「オペレーティング・リース」が原則として資産計上(オンバランス化)されることです。これにより、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が実質的になくなります。以下の表で、その違いを整理しました。
| 項目 | これまでの会計基準 | 新リース会計基準(案) |
|---|---|---|
| リースの分類(借手) | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類。 | 原則としてすべてのリースを単一の会計処理モデルで認識。(区分が廃止) |
| オペレーティング・リースの会計処理 | 賃貸借処理(オフバランス)。支払リース料を費用計上するのみ。 | 使用権資産とリース負債を計上(オンバランス)。減価償却費と支払利息を費用計上。 |
| 貸借対照表(B/S)への影響 | オペレーティング・リースはB/Sに計上されない。 | 原則すべてのリース契約がB/Sに資産・負債として計上されるため、総資産が膨らむ。 |
| 損益計算書(P/L)への影響 | オペレーティング・リースは、支払リース料が一定額で費用計上される。 | 減価償却費(定額)と支払利息(当初は大きく、徐々に減少)の合計額が費用計上されるため、リース期間の初期に費用が大きく計上される傾向がある。 |
このように、特にこれまでコピー機や社用車などをオペレーティング・リースとして費用処理してきた企業にとっては、会計処理が根本から変わることになります。
なぜ今リース会計基準が変更されるのか その背景
今回のリース会計基準の変更は、日本独自の動きではなく、国際的な会計基準との整合性を図る「コンバージェンス」の一環です。背景には、従来の会計基準が抱えていた大きな課題がありました。
それは、「オフバランス問題」です。従来の基準では、航空会社が保有する航空機や小売業が利用する店舗など、事業に不可欠な多額のリース契約がオペレーティング・リースとして扱われ、貸借対照表に計上されていませんでした。これにより、投資家や金融機関などの利害関係者が、企業の財政状態を正確に把握できないという問題が指摘されていました。
例えば、多額のリース債務を抱えているにもかかわらず、それが財務諸表に現れないため、負債が過少に評価されてしまう可能性があったのです。このような状況を改善し、財務諸表の国際的な比較可能性を高めるため、IFRSや米国会計基準が先行してリース会計基準を改正し、日本もこの世界的な潮流に追随する形となりました。
新基準の目的 オンバランス化による透明性の向上
新リース会計基準が目指す最も重要な目的は、企業の財務報告における「透明性の向上」です。
これまで貸借対照表に計上されてこなかったオペレーティング・リースを「使用権資産」および「リース負債」としてオンバランス化することで、企業がリース契約によってどれだけの資産を使用する権利を持ち、将来どれだけの支払い義務を負っているのかを、財務諸表上で明確に表示させます。
これにより、投資家や債権者などのステークホルダーは、企業のリース利用の実態や財政状態をより正確に、かつ実態に即して評価できるようになります。結果として、企業の財務状況がガラス張りになり、適切な投資判断や与信判断に繋がることが期待されています。これは、企業にとっても自社の財務規律を見直し、より健全な経営戦略を立てる良い機会となるでしょう。
新リース会計基準の適用はいつから?対象企業を確認
2023年5月に企業会計基準委員会(ASBJ)から公開草案が公表された新リース会計基準。自社がいつから対応すべきなのか、正確に把握することが最初のステップです。この新しい基準は、すべての企業に同じタイミングで適用されるわけではありません。企業の規模や採用している会計基準によって適用開始時期が異なるため、自社の状況を正しく理解し、計画的に準備を進めることが不可欠です。
ここでは、どの企業がいつから新基準の対象となるのか、そして早期適用を検討する場合のメリットについて詳しく解説します。
上場企業と非上場企業で異なる適用開始時期
新リース会計基準の適用開始時期は、企業の区分によって明確に定められる予定です。特に、金融商品取引法の適用を受ける上場企業や、会社法上の大会社から強制適用が開始される見込みです。一方で、現時点の公開草案では、中小企業の会計処理については、実務上の負担を考慮した代替的な取り扱いが示唆されています。
具体的な適用時期の案は以下の通りです。
| 対象企業 | 強制適用開始時期(予定) | 備考 |
|---|---|---|
| 上場企業(金融商品取引法の適用を受ける会社) 会社法上の大会社 | 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から | 国際的な会計基準であるIFRS第16号を任意適用している企業は、既に同様の会計処理を導入済みです。 |
| 上記以外の非上場企業(中小企業など) | 現時点では強制適用の定めなし | 当面は、従来の賃貸借処理を継続することが認められる見込みです。ただし、今後の会計基準の動向を注視する必要があります。 |
このように、まずは上場企業および大会社が2026年度から強制適用の対象となると理解しておくことが重要です。自社がどの区分に該当するのかを確認し、対応スケジュールを策定しましょう。
早期適用のメリットと検討事項
新リース会計基準は、強制適用の開始時期より前に任意で適用する「早期適用」も認められる見込みです。強制適用まで時間的な猶予がある企業も、早期適用を検討する価値は十分にあります。ただし、メリットと同時に考慮すべき点も存在します。
早期適用を判断する上で、以下の点を総合的に検討しましょう。
早期適用の主なメリット
- 財務の透明性向上と信頼獲得: すべてのリースを資産・負債として計上することで、財務実態がより明確になります。これにより、投資家や金融機関といったステークホルダーからの信頼性が向上する効果が期待できます。
- グローバル基準への準拠: 海外に親会社や子会社を持つ企業、あるいは海外企業との取引が多い企業にとって、IFRSに準拠した会計処理を早期に導入することは、グループ全体の会計方針の統一や、対外的な説明責任を果たしやすくなる点で有利に働きます。
- 余裕を持った体制構築: 強制適用が開始されると、多くの企業が一斉に対応を始めるため、会計システムの導入やコンサルティングの需要が集中する可能性があります。早期に準備を開始することで、リソースを確保しやすく、自社のペースで着実に業務フローの見直しやシステム対応を進めることができます。
早期適用にあたっての検討事項
- システム対応のコストと手間: 新基準に対応するためには、会計システムや資産管理システムの改修、あるいは新規導入が必要になる場合があります。これに伴う初期投資や、導入にかかる時間と労力を事前に見積もる必要があります。
- 経理部門の業務負荷: 社内に存在するすべてのリース契約を洗い出し、新基準に沿った評価や計算を行う作業は、経理部門にとって大きな負担となります。人員の確保や外部専門家の活用も視野に入れた体制づくりが求められます。
- 経営指標への影響の事前分析: 資産と負債が両建てで計上されるため、自己資本比率やROA(総資産利益率)といった経営指標が悪化する可能性があります。早期適用によってこれらの指標がどう変動するのかを事前にシミュレーションし、経営層や関係者への十分な説明が必要です。
これらのメリットと検討事項を天秤にかけ、自社にとって最適な適用タイミングを戦略的に判断することが、新リース会計基準へのスムーズな移行の鍵となります。
新リース会計基準の重要ポイントを徹底解説
2019年4月1日以後開始する事業年度から強制適用が始まった新リース会計基準(IFRS第16号、日本の会計基準では企業会計基準第31号「リースに関する会計基準」)。この基準の核心は、これまでオフバランス処理が可能だったリース契約の多くを、貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上する「オンバランス化」にあります。ここでは、経理担当者が押さえるべき重要ポイントを、具体的な会計処理の考え方とともに紐解いていきます。
原則すべてのリースが資産計上(オンバランス)へ
新リース会計基準における最大の変更点は、借手側の会計処理において、原則としてすべてのリース契約を資産および負債として計上することです。これにより、企業の財務実態がより透明性の高い形で財務諸表に反映されることになります。
使用権資産とリース負債の考え方
オンバランス化にあたり、新たに「使用権資産」と「リース負債」という勘定科目を用いて会計処理を行います。これは、リース契約を「特定された資産を一定期間使用する権利(使用権資産)を、将来のリース料支払い義務(リース負債)と引き換えに購入した」と捉える考え方に基づいています。
- 使用権資産:リース期間にわたってリース資産を使用する権利を資産として計上します。原則として、リース負債の当初測定額に、リース開始日までに支払ったリース料などを加算して算定します。計上後は、減価償却の対象となります。
- リース負債:リース開始日時点で未払いのリース料総額を、借手の追加借入利子率などで割り引いた現在価値で測定し、負債として計上します。計上後は、利息の計上とリース料の支払いにより減額されていきます。
この結果、損益計算書(P/L)では、従来は「支払リース料」として費用計上されていたものが、「減価償却費」と「支払利息」に分けて計上されることになります。
ファイナンスリースとオペレーティングリースの区分廃止
従来の会計基準では、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、会計処理を分けていました。ファイナンス・リースは売買処理に準じてオンバランス計上、オペレーティング・リースは賃貸借処理としてオフバランス計上が可能でした。
しかし、新基準では借手においてこの区分が廃止され、短期・少額の例外を除き、すべてのリース契約が単一の会計モデルで処理されることになりました。これまで費用処理で済んでいたコピー機のリースや社用車のカーリースなども、資産・負債として計上する必要があるため、特にオペレーティング・リースの割合が大きかった企業は注意が必要です。
例外処理となる短期リースと少額リースの定義
実務上の負担を考慮し、「原則すべてオンバランス」には例外規定が設けられています。以下のいずれかに該当するリースは、簡便的な会計処理(賃貸借処理)を選択適用することが認められています。
| 例外処理の種類 | 定義と内容 |
|---|---|
| 短期リース | リース期間がリース開始日から12ヶ月以内のリース。購入オプションが付いている場合は対象外となります。 |
| 少額リース | 個々のリース資産が新品であった場合の価額が少額であるリース。日本の会計基準では明確な金額基準はありませんが、実務上は重要性の観点から判断されます。(参考:IFRS第16号では5,000米ドル以下が目安とされています) |
これらの例外処理を適用するかどうかは、リース資産の種類ごとに企業の会計方針として決定する必要があります。
借手と貸手それぞれの会計処理
新リース会計基準の大きな特徴は、会計処理の変更が主に「借手」に求められるものであり、「貸手」の会計処理には実質的な変更がない点です。借手と貸手で会計処理が非対称になることを理解しておくことが重要です。
| 借手(リースする側) | 貸手(リースする側) | |
|---|---|---|
| 主な変更点 | 原則すべてのリースをオンバランス化。 (使用権資産/リース負債を計上) | 実質的な変更なし。 従来の会計基準を踏襲。 |
| リース区分の扱い | ファイナンス/オペレーティングの区分を廃止。 | ファイナンス/オペレーティングの区分を維持。 区分に応じて会計処理を行う。 |
このように、貸手側は従来通り、リース契約をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、それぞれに応じた会計処理を継続します。経理担当者としては、自社が借手となる契約に焦点を当てて、対応を進める必要があります。
経理担当者が今すぐ準備すべきこと5ステップ
新リース会計基準への対応は、一朝一夕には完了しません。適用開始に向けて、計画的かつ段階的に準備を進めることが不可欠です。ここでは、経理担当者が今すぐ取り組むべき具体的な5つのステップを、実務に即して解説します。
ステップ1 社内の全リース契約の網羅的な把握
最初のステップとして最も重要なのが、社内に存在するすべてのリース契約を正確に洗い出し、その内容をリスト化することです。リース契約は経理部門だけでなく、各事業部門や総務部門などが個別に締結しているケースも少なくありません。そのため、全社的な調査が必要となります。
まずは、コピー機や社用車といった典型的なリース物件から、サービス契約の中に実質的なリース要素が含まれている可能性のある契約(例:特定のサーバーを専有利用する契約など)まで、幅広く情報を収集します。収集した契約書については、以下の情報を一覧表(リース台帳)にまとめることで、後のステップがスムーズに進みます。
| 管理項目 | 確認すべき内容の例 |
|---|---|
| 契約の基本情報 | 契約相手先、契約締結日、リース物件、物件の数量 |
| リース期間 | 契約上のリース開始日・終了日、中途解約の可否、延長オプションの有無とその条件 |
| リース料 | 毎月の支払額、支払スケジュール、変動リース料の有無 |
| その他 | 所有権移転条項、割安購入選択権の有無、維持管理義務の範囲 |
このリース台帳の精度が、今後の会計処理や影響額試算の正確性を左右する生命線となります。
ステップ2 新リース会計基準に対応する会計方針の決定
次に、洗い出したリース契約を新基準に沿って会計処理するための、自社の「会計方針」を決定します。新基準では、企業の状況に応じて選択可能な実務上の便法(簡便的な取り扱い)がいくつか認められています。一度決定した会計方針は原則として継続適用が求められるため、慎重な検討が必要です。
特に重要な決定事項は以下の通りです。
- 短期リースの定義:原則としてリース期間が12ヶ月以内のリースを指します。これを適用するかどうかを決定します。
- 少額リースの金額基準:新品状態での価額が少額である資産のリースについて、簡便的な処理が認められます。この「少額」とする具体的な金額基準(例:5,000米ドル相当額以下など)を自社で設定する必要があります。
- リース期間の判断:借手がリースを延長または終了させるオプション(選択権)を持っている場合、その権利を行使することが「合理的に見込まれる」かどうかを判断し、リース期間に含めるか決定します。
- 割引率の算定方法:リース負債の現在価値を計算する際に用いる割引率を決定します。貸手の計算利子率が容易に算定できない場合、自社の追加借入利子率を使用しますが、その算定方法を具体的に定めておく必要があります。
ステップ3 業務フローの見直しと会計システムの対応検討
新基準の適用により、従来の業務フローでは対応が困難になる可能性があります。特に、リース契約の情報を一元的に管理し、資産計上から減価償却、利息計算、仕訳作成までを効率的に行うための仕組みづくりが急務です。
既存の会計システムが新リース会計基準に対応しているか、ベンダーに確認することから始めましょう。対応していない場合は、システムのバージョンアップや改修、リース管理に特化した新たなツールの導入などを検討する必要があります。Excelでの管理は契約件数が少ないうちは可能かもしれませんが、契約内容の変更や複雑な計算、内部統制の観点からリスクが伴います。
また、各事業部門がリース契約を検討する段階で経理部門に情報が連携されるよう、社内ルールや申請フローを見直すことも、適切な会計処理を継続する上で非常に重要です。
ステップ4 財務諸表への影響額の試算
これまでのステップで整理した情報と決定した会計方針に基づき、新基準を適用した場合の財務諸表への影響額を試算します。この試算により、経営層や株主、金融機関などのステークホルダーに対して、事前に十分な説明責任を果たすことができます。
試算すべき主な影響は以下の通りです。
- 貸借対照表(B/S):これまでオフバランスだったオペレーティング・リースが資産(使用権資産)と負債(リース負債)として計上されることで、総資産がどの程度増加するか。
- 損益計算書(P/L):費用計上の内訳が「支払リース料」から「減価償却費」と「支払利息」に変わることで、営業利益や経常利益にどのような影響を与えるか(一般的に適用当初は費用が前倒しで計上される傾向があります)。
- キャッシュ・フロー計算書(C/F):リース料の支払いが、営業キャッシュ・フローから、元本返済部分が財務キャッシュ・フロー、利息支払部分が営業キャッシュ・フロー(または財務キャッシュ・フロー)へと区分される影響。
この試算結果は、次章で解説する経営指標へのインパクトを分析する上での基礎情報となります。
ステップ5リフレッシュしつつ社内体制を構築
新リース会計基準への対応は、経理部門だけで完結するものではなく、全社的なプロジェクトとして取り組むべき課題です。法務、総務、IT、そして実際にリースを利用する各事業部門との連携が不可欠となります。
まずは、プロジェクトチームを正式に立ち上げ、各部署の役割と責任者を明確にしましょう。その上で、関連部署のメンバーに向けた説明会や研修会を実施し、新基準の概要や自社への影響、協力が必要な事項について共通認識を醸成することが成功のカギとなります。
このような大規模な会計基準の変更対応は、担当者にとって大きなプレッシャーとなります。時にはチームメンバーで上質な個室サウナを利用し、心身ともにリフレッシュするのも一つの手です。リラックスした環境で意見交換を行うことで、普段は出ないような建設的なアイデアが生まれ、チームの結束力を高める効果も期待できます。複雑な課題に立ち向かうためには、こうしたメリハリをつけたチームビルディングも有効な戦略と言えるでしょう。
新リース会計基準が経営指標に与える影響
新リース会計基準の最も大きなインパクトは、これまで貸借対照表(B/S)に計上されていなかったオペレーティングリースが「使用権資産」および「リース負債」として資産・負債の両建てで計上される「オンバランス化」です。この変更は、財務諸表の数値を大きく変動させ、企業の財務健全性や収益性を示す経営指標に直接的な影響を及ぼします。ここでは、具体的にどのような指標に影響が出るのか、そして企業の意思決定にどう関わってくるのかを詳しく解説します。
自己資本比率やROAなど主要指標へのインパクト
リース資産のオンバランス化は、資産と負債が同時に増加することを意味します。これにより、特に安全性を測る指標が悪化する傾向にあります。一方で、損益計算書(P/L)上の費用計上の方法も変わるため、利益指標にも影響が出ます。主要な経営指標への影響を以下にまとめました。
| 経営指標 | 影響 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 総資産 | 増加 | これまでオフバランスだったリースについて「使用権資産」が計上されるため。 |
| 負債総額 | 増加 | 未払リース料総額が「リース負債」として計上されるため。 |
| 自己資本比率 | 悪化(低下) | 自己資本額は変わらないまま、分母である総資産が増加するため。 |
| 負債比率(D/Eレシオ) | 悪化(上昇) | 自己資本額は変わらないまま、分子である負債が増加するため。 |
| ROA(総資産利益率) | 悪化(低下)傾向 | 分母である総資産が増加するため。利益への影響は期間により異なるが、一般的に総資産の増加インパクトが大きい。 |
| EBITDA | 改善(増加)傾向 | 従来の支払リース料(営業費用)が、減価償却費(EBITDA計算上は足し戻される)と支払利息(営業外費用)に分解されるため。 |
特に注意が必要なのは、自己資本比率や負債比率といった安全性指標が悪化する可能性がある点です。これは実質的な財務体質が変わったわけではなく、会計上の表示方法の変更によるものですが、金融機関からの借入契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触するリスクも考えられます。そのため、事前に影響額を試算し、必要に応じて金融機関と協議しておくことが重要です。また、EBITDAが増加することで、見かけ上の収益性が向上したように見える可能性もありますが、これも会計処理の変更に起因するものであることを正しく理解し、外部へ説明できる準備が求められます。
設備投資の意思決定プロセスへの影響
従来、多くの企業は貸借対照表をスリムに保つ「オフバランス」のメリットを享受するために、資産の所有(購入)ではなくオペレーティングリースを選択するケースがありました。しかし、新リース会計基準の適用後は、原則としてすべてのリースがオンバランス化されるため、この会計上のメリットは失われます。
これにより、企業が設備投資を行う際の「購入か、リースか」という意思決定プロセスにも変化が生じます。会計処理の差がなくなることで、より純粋に経済的な合理性に基づいて選択する必要が出てくるのです。具体的には、以下のような視点での比較検討がより重要になります。
- 物件の所有に伴うリスク(陳腐化、故障など)とリターン
- 初期投資やランニングコストを含めたキャッシュフローの総額
- 契約期間満了後の柔軟性(返却、再リース、買取など)
- 税務上の効果(固定資産税、減価償却など)
これまでは会計上のメリットが大きな判断材料の一つでしたが、今後は財務戦略や事業戦略と照らし合わせ、より本質的な観点から最適な資産調達方法を判断することが求められるようになります。リース会社からの提案も、単なるオフバランス効果を謳うものではなく、ファイナンス面や物件管理面での付加価値を問われることになるでしょう。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から、経理担当者が今すぐ準備すべきことまでを網羅的に解説しました。新リース会計基準における最大の変更点は、これまでオフバランス取引として扱われていたオペレーティングリースを含め、原則としてすべてのリース契約が資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)される点です。
この会計基準の変更は、企業の財務状況の透明性を高め、投資家がより正確な意思決定を行えるようにすることを目的としています。これにより、従来のファイナンスリースとオペレーティングリースという区分は原則的になくなり、「使用権資産」と「リース負債」を用いて会計処理を行うことになります。
経理担当者にとっては、社内に存在するすべてのリース契約を洗い出すことから始まり、会計方針の決定、業務フローや会計システムの見直し、そして財務諸表への影響額の試算まで、多岐にわたる準備が求められます。特に、総資産が増加することで自己資本比率やROA(総資産利益率)などの経営指標が悪化する可能性があるため、経営層への事前説明も重要となります。
新リース会計基準への対応は、単なる会計ルールの変更ではなく、企業の財務戦略や設備投資計画にも影響を与える重要な課題です。本記事でご紹介した準備ステップを参考に、計画的に社内体制を構築し、スムーズな移行を実現してください。